WISCの意外と知らない見るべきポイント

発達

子どもの発達が心配でWISCしてもらったけど数値見ておけばとりあえずいいかな…?こう思っている方いらっしゃいませんか?…実はコレ、違うんです!WISCは、実は見るべきポイントがあって、それは数字ではないんです。今日の記事を読めば、

  • WISCで見るべきは所見や文章表記の部分!
  • 数値の凹凸も要チェック!
  • IQは上がる可能性もあると近年言われ始めている。

ということが分かります。

※まだWISCーⅤに関する専門書が一般的に出ていないようなので、今回は基本的にWISCーⅣに基づいてお話をしています。VSIに関する分析はまた後日追記しようと思いますが、根本は大きく変化していないと思いますので、現在のWISCーⅤにも通じる内容かと思います。

WISCとは知能検査の一つ

WISCとは、子どものIQ値を測る知能検査です。現在は第五弾(WISC- Ⅴ)まで行われており、特に発達の程度を測るのに広く使われている検査です。WISCで分かることはとても多いです。保護者や本人に開示されるのはFSIQやそれを構成する4つの指標の数値がメインですが、検査結果からカウンセラーや医師は以下の項目のような様々な情報を得ています。これらを元に、本人の困り感や特性を分析しているのです。

  • VCIとPRI、VSIから成るGAI(一般知的能力)の数値
  • WMIとPSIから成るCPIの数値
  • CAIとCPIを比較しての分析結果
  • 各検査(下位検査)の数値から臨床クラスターレベルでの分析結果
  • 個人内差の分析結果

各指標の示す力

  • VCI…語彙の知識や一般的知識などの習得知識
    • これが低いと、言葉の理解や表現につまづきを感じやすい
  • PRI…視覚情報、非言語情報による推理
    • これが低いと、目からの情報の処理、ルールの発見、見通しを立てるといった部分につまづきを感じやすい
  • WMI…情報の保持と処理を司る、ワーキングメモリー
    • これが低いと、読み、書き、注意散漫、聞き間違いによる思い込みといったつまづきを感じやすい
  • PSI…認知や描写の処理速度
    • これが低いと、板書や課題を終えるのが遅くなりやすい
  • GAI…VCIとPRIを足したもので、一般的な知的能力を表す
    • VCIなどの4つの指標にバラツキがある場合、FSIQ(いわゆるIQ)よりもこちらを参考にした方が良い場合がある
  • CPI…WMIとPSIを足したもので、絶えず変化する環境に適応する能力を表す
    • あまり安定した指標ではないが、GAIと比較することで分析が可能になる

WISCの結果を見るのにあたって気をつけなければいけないことがある

WISCの結果から、様々な数値が出てきます。この数値を元に、本人の困り感や特性を分析するわけです。ですが、私たち被検査者がパッと見ても「IQが低い?高い?」くらいしか分かりません。そこで検査結果については、数値からわかったことを検査者(カウンセラーや医師)が、所見という形で文章で伝えることになっています。ですので、所見が一番重要になってくるわけです。ここで少し注意しなければならないのが、検査者が何を考えて所見を出しているかということです。「WISCの基本ガイドライン」にはこうあります。

  • 心理検査の結果は絶対的な真実ではない
  • 何を伝え、何を伝えるべきではないのかを考えなくてはならない
  • 正確な情報と役立つ情報とは違う

つまり、検査者が所見を出すのにあたり配慮している事項があり検査結果は検査者が誰でも変わらない絶対的なもの、ではないのです。

検査結果は絶対的な真実ではない

心理検査は、一種の行動観察です。検査者は様々な数値を集め、分析し、推論して観察の結果を出します。WISC研究の第一人者、カウフマンも「カウンセラーは探偵である。」といっているように、あくまで検査結果は推理、考察の結果なのです。例えば、WISCには以下のような注意事項もあります。

  • 外れ値(下位検査得点が1つだけ大きく外れた値)があったら採点を丁寧に見直すこと
  • アーティファクト(偶然による結果)でないことの確認をすること

どちらも、「見直す」「確認する」など、曖昧な指示です。絶対的な対応があるわけではなく、検査体制に委ねられる部分があるのです。

WISCの検査者は、検査結果として何を伝えるべきか、考えなくてはならない

現在の世界的な考え方として、「障害は個人と環境の相互作用の中で、重くもなれば、軽くもなる=IQ値が70未満でも、社会的適応が良ければ知的障害と呼ぶのは相応しくない」となっているため、心理検査に関しては、IQ値は一つの発達状態を示すもので、人間理解の1要素に過ぎないとされています。また、このため以前はIQ値によって「優秀」〜「劣等」という表記がされていたのが、「非常に高い」〜「非常に低い」と、状況だけを明示し、価値観を示すことを回避できる表記になっているのです。こういった背景もあり、カウンセラーは「専門家でも慎重に解釈すべき事項を、誤解を招きかねない形でしかも過多に報告することは戒めなければならないと考えているのです。

分析結果の情報について正確に伝えようとすると流動性推理、臨床クラスター、限定能力といった専門用語が飛び交う所見になってしまいます。専門家同士の意見交換ならそれでいいですが、保護者や教師に説明するのに、そういった形では情報がうまく伝わりません。そこでカウンセラーは、情報を正確に伝えることは心がけつつも、保護者や教師が理解し、情報を役立てやすいように正確性以上に伝わりやすい表現を意識して情報を伝えてくれています。ですので、所見等にある情報については、ある意味では役立つ情報ではあるが、厳密には正確な情報でない可能性もあるということです。

WISCの個人間差と個人内差の視点も持たなければいけない

個人間差とは、他人と自分を比べることです。つまり、FSIQを以下の表のようにして考えて、他人と比較するのが個人間差の考え方です。

合成得点分類
130以上非常に高い
120〜129高い
110〜119平均の上
90〜109平均
80〜89平均の下
70〜79低い(「境界域)
69以下非常に低い

個人内差とは、自分の検査結果の指標同士を比較することです。例として、「VCI 105、 PSI 110、 PRI 82、 WMI 109、 PSI 100」で「WMIだけが有意に低い」といったような見方を指します。これが結構大事で、カウンセラーが各数値から発達を分析するのにあたっては各数値の差が23点以上ある場合大きな差(ディスクレパシー)がある、としてFSIQから発達の度合いを判断するのは難しいとすることが多いのです。つまり、個人内差の大きさによっては個人間差が素人目には分からないということになるのです。

※ディスクレパシーの基準の値はFSIQによっても変わるため、23点が絶対ではない

これについてはWISCーⅣでの情報ですが、ディスクレパシーの形によって、ASDに多い形やADHDに多い形というものがあります。あくまで多い、ということなので、これも断定できるものではありません。ですが一つの目安として知っておいても良いかと思います。私自身、これを参考にし、自分のディスクレパシーの形が発達障害に近いと考え、セカンドオピニオンのきっかけにしました。

ADHDに多い形

ASDに多い形

あくまでご参考までに。私自身この形から少しずれていますが混合型ADHDの診断を受けています。

下位検査の指標にばらつきが大きい時は、4つの指標も参考にできない

先ほどもお伝えしましたが、各数値の差が23点以上ある場合大きな差(ディスクレパシー)がある、としてFSIQから発達の度合いを判断するのは難しいとすることが多いです。ですが、それ以外にも、そもそもVCI等の4つの指標を構成するそれぞれの下位検査(いわゆる被験者が受けた一つ一つの検査のこと)結果に、最高点と最低点で5点以上の差がある場合についてはその指標を知能の解釈の参考にするのは難しい、ということがあります。ここでさらに難しいのが、下位検査の点数は被験者に開示されないことが多い、ということです。下位検査の点数にばらつきがあり、参考にできない場合には数値ではなく、所見等、文章にて示してあることがほとんどです。ですので、改めて、数値を見るだけではなく、所見などの文章をしっかり読むことが重要になります。

4つの指標も下位検査も全てバラバラの場合は臨床クラスターでの分析が行われる

検査の結果がバラバラでFSIQどころかVCI等の4つの指標も参考にできない場合については、下位検査をその性質ごとに再構成させた、臨床クラスター(CHC因子)による分析を行います。下位検査には「行列推理」や「絵の完成」、「積み木模様」、「算数」などの検査があります。これらはそれぞれ、知能を細分化して分類した、「流動性推理」や「視覚処理」、「非言語性流動性推理」などの知的能力を分析する材料になります。これらの知的能力の項目ごとに下位検査を再構築して分析するのが臨床クラスターによる分析です。例えば、「流動性推理」=「行列推理」+「絵の完成」+「算数」、「視覚処理」=「積み木模様「」+「絵の完成」といったようにして検査結果を統合して分析していきます。ただ、この分析結果についてはかなり専門的な内容であるためか、WISCの検査結果に数値として示されることはほぼありません。ですのでやはり、初見や文章に着目する、ということが重要になってきます。

WISCの数値と子どもの関係について、教師生活で感じたこと

私は数十年間、特別支援学校で、主に知的障害、発達障害のお子さんを見てまいりました。特別支援学校には生徒の情報としてWISCの結果をいただくことが多く、そこから個人的に様々な分析をしてきました。その結果について、非常に個人的な意見ですが、述べさせていただきます。

即時的なことを言えば、個人内差が結構大事

私は高等部に所属することが多かったので、卒業後の社会生活を見据えた支援を意識し、行っていました。そういう視点に立つと何が重要になってくるのか?実は、その子に働く力があるか、ではなく社会性、コミュニケーションが適切に行えるかが重要になってきます。福祉施設にお世話になる場合は少し変わってきますが、会社に所属する場合には「働く能力は会社に入ってから伸ばせるが、社会性は会社に入る前にないと困る」とよく会社から言われます。事実、「就労準備性ピラミッド」においても、作業能力より下、土台にコミュニケーション能力があります。そして、個人内差が大きいお子さんにコミュニケーション能力に困り感を持っている子が多いというのが私の経験則です。絶対ではないですが、例えばFSIQが59(非常に低い)で個人内差がほとんどないAくん、FSIQが89(平均の下)でディスクレパシーのあるBさん多くの場合、Aくんの方が比較的早期に就労先を決定できたのです。

WISCの数値の大小は、能力の可能性の幅かもしれない

ディスクレパシーがあると絶望的なのか、というとそうではありません。あくまでコミュニケーションに困り感があり、就労先を見つけるのに時間がかかったというだけなのです。時間がかかるだけなのです。各指標に差がある=得意なことと苦手なことの差が大きい、というだけですので、言い換えれば得意なことはとても得意ということなのです。ディスクレパシーがあったら将来を決定できないということは全然ありません。ディスクレパシーがあるほど得意が飛び抜けている=ハマれば大活躍できるこれも私の経験則です。数値が高い=秘めている能力が高く、環境設定が重要になる私はこう解釈しています。

IQは上がる可能性があると言われている

近年、様々な研究の結果から、IQを上げる可能性のある方法について言及されるようになってきています。例えばその一つが「関係フレーム」です。

「関係フレーム」とは、目に見えない学習の条件づけのこと

私たちは何気なく言葉を学習しています。この言葉と実際のものの結びつきのことを「関係フレーム」と言います。

例えば、物質としては結びつきの無いもの、①「ぴょん太」と書いてあるカードと、②白黒のうさぎの写真、③「ブーっ」という鳴き声、この3つについての学習について考えてみましょう。まず学習者が質問者に「ぴょん太」という文字が書いてあるカードを提示され、「白黒のウサギの写真」「犬の写真」「猫の写真」が示されるとします。「『ぴょん太』はどれでしょう?」という問いに「白黒のウサギの写真」と回答した場合に、質問者が学習者に「正解!」という刺激を返します。これにより、①(「ぴょん太」という文字)→②(白黒のウサギの写真)が訓練され、学習されます。

この学習の後、「白黒のウサギの写真」を見せられると学習者は「ぴょん太」と答えられるようになります。直接は教えられていませんが、それなのに②→①という関係が理解できるのです。

同じように、「白黒のウサギの写真」が示されて「これは『ブーっ』と鳴く」と訓練されると、②(白黒のウサギの写真)→③(「ブーっ」という鳴き声)という学習がされ、直接教えなくても③→②という関係性を理解できるようになります。さらに、今度は②の写真を見せられなくても「ぴょん太はどんなふうに鳴きますか?」という問いに「『ブーっ』と鳴く」と答えられるようになります。これも、直接教わっていなくても、「①=②、②=③、ならば①=③」という関係が理解できるようになるのです。

これが、言葉と実際のものの関係性について脳内で結びつける、「関係フレーム」の一例です。ここでは「=」の関係性についてあげましたが、他にも「①と②は違う」というように、「反対」「区別」「比較」といった関係フレームもあります。

関係フレームに関する訓練で知的能力が向上する可能性がある

これまでのいくつかの研究の中でには、関係フレームに関する訓練を行うことで知的能力が向上するというものがあります。さらに、知的障害のある人やASDを対象とした研究でに、IQの向上につながる可能性が示されている研究もあります。特にASDの方については、関係フレームに関する訓練を行うことにより、気持ちの言葉を上手に使えるようになったり、相手の視点をもちやすくなったりするという意見もあります。

関係フレームの訓練とは、物事の関係性の学習

関係フレームには「等位」「反対」「区別」「比較」の他にも「階層的関係」「時間的関係」「空間的関係」「因果関係」「視点の関係」があります。こういった関係性の学習が関係フレームの訓練となります。これらの学習については、算数や数学、理科や社会などさまざまな科目で学校で教わっています。つまり、学校での基礎的な学習が関係フレームの訓練となり得るのです。一方、学習内容が複雑さを増すにつれ、それらについていけなくなる子どもも出てきます。関係フレームスキルの訓練においては、理解しやすく取り組みやすい課題をして学習課題を示す必要があります。

WMIを上げると言われている訓練がある

IQの中にWMI(ワーキングメモリー)という指標があります。このWMIを上げると言われている訓練がいくつかあります。

ストラテジートレーニング

効率的に情報を維持し、操作するための戦略(ストラテジー)を学ぶトレーニングです。以下に3つの例を挙げます。

  1. 情報を記憶させるときに一つ一つに意味を持たせ、複数の情報に物語を持たせる。
    • いわゆる語呂合わせ。
  2. チャンキング
    • 複数の情報をそのまま覚えるのではなく、頭文字で切るなど様々な方法で小さな塊にグループ分けし、覚えやすくする。
  3. 知識量を増やす

コアトレーニング

WMIそのものを大きくすることを目指したトレーニングです。新しい環境に身を置き、状況を把握して戦略を工夫することで、WMIの向上を図ります。年に1回新しい習い事を始める、新しい言語を覚える、といったことが例に挙げられます。ただし、不安を呼び起こしすぎないようにすることに注意が必要です。

「WMIは上がらない」という、これらのトレーニングを否定する意見もある

注意すべきなのは、「トレーニングはトレーニングでしかない」という意見もあるということです。上記のようなトレーニング方法が推奨される一方で、「トレーニングした内容は上達するが、WMI自体に変化はない」という研究結果も報告されています。あくまで参考程度にしておくことが良いかと思われます。

そもそも「IQが低い=障害」ではないという考え方もある

これについてはまとめると以下のとおりです。

  • 知的障害の一つの基準はIQが69以下であるかどうか。
  • 知的障害の判断は、IQと適応行動の二面から考えるべき。
  • 環境がシンプルなものであれば、適応に求められるIQは低くなる。つまり、障害ではなくなる。
  • 障害は個人と環境の相互作用の中で、重くもなれば軽くもなる。
  • IQという指標が不必要ということではない。

まとめ

WISCについて、誤解しがちなことやかなり専門的な話までお伝えさせていただきました。「分析は人の主観もあるので注意が必要」「大事なことは数値ではなく文章で書かれている」「IQは上がることもあると言われつつある」このあたりをまず押さえていただけたら良いかと思います。最近Xで、IQ値的には知的障害に分類される方も教員採用試験に受かったという話も聞きました。個人的な意見かもしれませんが、IQ=人生の満足値とはならないと思います。WISCで示された内容をどう活かしていくか、それこそが重要かと。ですので、よりWISCへの関心や理解を深めていただき、より良い生活を送るための手引きの一つになれば、と願っています。

今日もお読みいただき、ありがとうございました。

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