不登校の保護者に伝えたい「セルフケアのすすめ」

こころ

子育てが上手くいかないのは私のせいでは…、子どもが学校に行かないのはウチでの対応が悪かったから…?そんな風にお悩みの方いらっしゃいますでしょうか。個人的には断言します。そのように悩んでいらっしゃる時点でみなさんのせいではありません。そんな責任感ある方々が全責任を負うように考える必要なんてないのです。でも、ついついそう考えてしまう、ということもありますよね。そこで、今回は保護者のみなさんのセルフケアについて心理学の観点からお話をしたいと思います

  1. 保護者のセルフケアをお勧めする理由
  2. 支援だけでなくセルフケアにも「認知行動療法」がオススメ
  3. 保護者のセルフケアにはこの技法がオススメ
    1. 「行動活性化法」は行動へのアプローチ
    2. 「認知再構成法」はまず気分をしっかり把握することから始める
      1. 浮き上がってくる「自動思考」を理解する
        1. 「10の推論の誤り」が自動思考に大きく影響する
      2. 現実場面で思考と気分を理解する練習
        1. その自動思考は現実的?客観的に評価しよう
      3. 新たな認知で自分の変化を促そう
        1. なかなか元の認知から離れられない場合は「脱中心化」を活用しよう
        2. 過去の体験から、役だつ考え方を見つける
    3. ACT、マインドフルネスで心を整える
      1. 私たちの心は「感情、感覚」と「言語行動」でできている
      2. 言語行動は行動の結果に作用する
        1. 言語行動によって「ルール支配行動」が生まれる
        2. ルール支配行動のダークサイド
        3. ルール支配行動には、自己概念から生まれる「自己ルール支配行動」もある
      3. 私たちは心の中で「話し手」でも「聞き手」でもある
        1. 私たちは最高の話し手でも、最高の聞き手でもない
        2. 心の中はダークサイドに落ちやすい
      4. ACTによってダークサイドに落ちやすい心を訓練する
        1. 感じたことをそのままにすること
        2. 感じたことに気づくこと
        3. 選ぶこと
        4. ACTにおける、人の「普通の状態」とは、苦痛を抱えている状態
      5. ACT、マインドフルネスのエクササイズ
        1. 感じたことに気づき、そのままにするエクササイズ
        2. 脱フュージョンをイメージするエクササイズ
      6. 選ぶこと、「活力ある行動」のための条件
        1. 価値を考える時のポイント
        2. 価値をイメージするエクササイズ
      7. 価値に向かう行動を計画する(スモールステップで)
      8. ACTマトリックスを作ってみる
  4. まとめ

保護者のセルフケアをお勧めする理由

まず大前提として、発達障害児の育児も、不登校児童生徒の対応も、保護者の負担が大きすぎます!まず発達障害児の育児ですが、これは自分が学校で携わっていたので感じますが、まあ過酷すぎます…!同僚ともよく話題にあげていましたが、「自分たちは学校という限られた時間で、しかも仕事として接しているからそれなりに楽しくもやれるけれども、愛情のみで1日中対応している保護者のしんどさは計り知れない…。」と感じていました。実際、X上では保護者の方の生々しい壮絶な苦労のお話をよく耳にし、本当に頭が上がらない思いでいます。

支援だけでなくセルフケアにも「認知行動療法」がオススメ

まず、認知とは「目にしたもの、体験したことをどう理解するか」ということです。これをより現実に適したものにかえ、行動の変容も目指していく、というのが認知行動療法です。例えばこちらの図をご覧ください。

この4つの要素は全て関連ついています。例えば「仕事で相手を怒らせた」という出来事があったとします。これに対し、認知が「また失敗した!上司の怒られる」と認識したとします。すると気分が「不安、憂鬱」になり、行動が「仕事に手がつかなくなる」となります。さらに身体反応が「息苦しい」となるかもしれません。さらにその身体反応が不安を強くしたり、認知を強化したりします。このように4つの要素は互いに影響しあっているのです。ですので、「認知が変われば行動も変わる」「行動が変われば認知も気分も変わる」といった考え方をして治療を行っていくのが認知行動療法なのです。

保護者のセルフケアにはこの技法がオススメ

認知行動療法には様々な技法が存在します。今回紹介するのは、その中でもセルフケアにオススメの技法です。

  • 行動活性化法
  • 認知再構成法
  • マインドフルネス、ACT

「行動活性化法」は行動へのアプローチ

活動量の減少が状況の維持要因であると捉え、状況の改善を図る方法です。例えば次の表を見てください。

< テーマ 「ゆううつ」 >

1月16日(月)1月17日(火)
7:00〜起床、身支度          90起床、身支度         90
8:00〜通勤             100通勤            100
9:00〜仕事、ミーティング       80仕事             80
〜中略〜
21:00〜スマホ 動画          20ゲーム            30

この表のように、1週間の活動記録を行います。例えば抱えている問題が気分の「憂鬱」であれば、その気分についてその気分がどれくらい強くなったかを0〜100で数値化します。この表を元に、辛い気分が低下している部分に注目します。次週はその行動を増やし、楽しみや達成感を得られるようにします。何もなければ気分を悪化させている行動を見直します。「酒を飲む」などの苦痛を先延ばしにするだけのいわゆる「回避行動」についても見直していきます。

「認知再構成法」はまず気分をしっかり把握することから始める

私たちの気持ちは「辛い」「もう無理」なとど漠然としています。まず、自分の気分をしっかり捉え、適切に表現することが認知再構成法のスタートです。例えば「辛い」という表現があった場合に、「辛い」=「悲しみ」なのか、=「落ち込み」なのかといった形でより精密な表現を考えていきます。気分をより正確に表現できるようになったら、それを数値化する練習をします

  • 簡単な資料作りでミスをしてしまった。
    • 「悲しい」=70%、「惨め」=80%、「悔しい」=30%

気分を表現する際「気分」と「思考」を混ぜてしまう場合があります。その場合は、「気分」と「思考」を分ける練習もしましょう

浮き上がってくる「自動思考」を理解する

何か嫌やことや辛いことが起きた際に半ば自動的に浮かんでくる思考をここでは「自動思考」とします。嫌な出来事は誰にでも起こりますが、同じ出来事でも感じる気分が人によって異なります。これは、出来事に対してこの「自動思考」を通して「気分」が決まっていくからなのです。自分がどんな自動思考を持ち、どんな気分を感じたのかを把握できるよう、練習をしましょう。直近の辛かった出来事を振り返り、「出来事に対してどんな自動思考が浮かんだか」「その時の気分と数値はどんなだったか」を考えてみましょう

自動思考については、「DACS質問用紙」を使うことで簡単に見つけることもできます。以下のような質問項目が50項目載っており、書式についてはここで書籍等よりダウンロードすることができます。参考資料についてはまた別記事にまとめますので、参考になさってください。

  • 私にはこの先嬉しいことはないだろう          5 4 3 2 1
  • 私はこの先幸せになれないだろう            5 4 3 2 1
  • 私にはこの先良いことがないだろう           5 4 3 2 1

  …(以下略)

「10の推論の誤り」が自動思考に大きく影響する

また、自動思考に大きく影響を及ぼすのが以下の「10の推論の誤り」です。これらはストレスが強まると現れる度合いが強くなるので、注意が必要です。

  1. 全か無か思考
    • 完全な成功や結果以外、全て失敗と捉える
  2. 過度の一般化
    • 一つの否定的な出来事を全てに当てはめる
  3. 心のフィルター
    • 否定的なことに囚われ、良いことに目を向けられない
  4. 結論の飛躍
    • 人の心を勝手に読んだり、事態を先読みする
  5. マイナス化思考
    • プラスの出来事を拒絶したり、軽視する
  6. 拡大解釈と過小評価
    • マイナス面を過大に、プラス面を過小に評価する
  7. 感情的決め付け
    • 感情こそが事実の根拠と思い込む
  8. すべき思考
    • 非現実的な高い基準を、自分や他者に課してしまう
  9. レッテル貼り
    • 自分や他者を極端なステレオタイプで評価する
  10. 個人化
    • 他の人に起きたことを自分のせいと思い込む

現実場面で思考と気分を理解する練習

気分と自動思考の関係を理解できたら、その後の現実場面で早速チェックしていくようにします。

こういった記録を繰り返していくと、状況を客観視するクセがつき、嫌な気分に飲み込まれにくくなります。次に、この記録を元に自動思考について考察をしていきます。

その自動思考は現実的?客観的に評価しよう

先ほどの自動思考の中から、最も気分を強く動かす「ホットな思考」にスポットを当てると効率的です。その自動思考に対して、根拠となる事実とそれに対する反証をできるだけたくさん考えていきましょう。反証が思いつきづらい時は、自分のことでなく「同じことが友人に起きたら」などと仮定し、なるべく客観的な視点を持って意見を考えられるようにしましょう。

  • 「ホットな思考」自分だけ嫌われていて、顔を見るのも嫌かもしれない
    • <根拠>すぐに書類を返された
    • <反証>他の人もされている、本当に忙しかったのかも、ただ機嫌が悪かっただけかも…

このように考えていき、「根拠」「反証」のどちらが多いかを考えます。「反証」の方が多かったら事実とは言えません。事実に即した別の認知を考えられるよう、意識していきましょう。ここで認知の誤りに気づいたら、先ほどの「10の推論の誤り」のどれに当てはまるかも考えてみましょう。認知の誤りをより客観的な事実として自分に落とし込むことにつながっていきます。

新たな認知で自分の変化を促そう

自動思考の偏りや認知の誤りに気づけたら、次は「適応的思考」や「新たな感情」について考えていきます。以下のように表を埋めていき、最終的に気分がどうなったかを整理していきましょう。

日時、出来事、自動思考、感情推論の誤り適応的思考、新たな感情
月曜、ようやく退院。夫は私を家へ送り、また仕事へ。家は片付いており、子供は私の実家にいるので部屋で一人きり。電話もメールも誰からもない。
→「私は誰からも必要とされてない人間だ」
→悲しみ90%、惨め60%
レッテル貼り
過度の一般化
・「病気になる前は家事も育児もかんばっていた。必要とされていると感じていた。
・今は色々できないことがあるけど、心配してくれる友人や家族がいる。自分には価値がある。

 (ここに新しい感情、その度合いを書く)
なかなか元の認知から離れられない場合は「脱中心化」を活用しよう

ここまで取り組んできても、なかなか元の認知から離れられない場合もあります。その場合は「脱中心化」を活用していきます。「これまでの認知」=「真実」と思い込む自分を、上空から眺めるイメージを持ちましょう。具体的には、「他者目線で眺める」という方法がオススメです。「友人がそのように考えていたら、どう言葉をかけるだろう?」と考えてみましょう。人は、自分目線では自分に対して不当に厳しい評価をつけがちです。他者目線にすることで、厳しすぎる基準で自分を不当に苦しめていたことに気づけるかと思います。

過去の体験から、役だつ考え方を見つける

人には本来、辛い状況を乗り越える強さ「ストレングス」と精神的な回復力「レジリエンス」が備わっています。その部分に焦点を当てていくのが「ポジティブ認知行動療法」です。過去の辛かった経験を振り返り、「どうそれを乗り越えてきたのかを考えましょう。また、その際には以下の「6つのストレングス領域」を意識すると気づきが深まりやすいです。

  1. 知恵と知識
    • 好奇心や学びへの意欲など、問題を解決し、成長しながら人生を豊かにしようとする力
  2. 勇気
  3. 人間性
    • 愛情、親切さ、コミュニケーション能力など、他者とつながり、思いやる力
  4. 超越性
    • 希望、感謝、ユーモアなど、心を豊かにする価値を見出す力
  5. 節度
    • 謙虚さな寛容さ、慎重さ
  6. 正義
    • 社会的責任、公正さ、リーダーシップなど、信頼や協力を元に成し遂げる力

ACT、マインドフルネスで心を整える

私たちの心は「感情、感覚」と「言語行動」でできている

「心が何からできているのか」これはさまざまな学問で研究されている内容です。これについて、行動分析学という学問では、以下のように考えらえています。

  • こころは2つのパーツからできている
  • ①感情、感覚
  • ②言語行動

言語行動とは、言葉の機能のことで、言葉が意味を持ち、働くというコトです。例えば、「トイレ」という言葉でも、言い方によって「場所としてのトイレ」を指すときもあれば、「トイレに行きたい」ということを指すことがあります。このように、言葉が様々な意味を持って機能することを言語行動と言います(ちなみに言語行動は言葉のみならず、絵などを用いてその意味を機能させることも言語行動に当てはまります)。

①と②はお互い紐づいています。「怖い」という言葉には「怖いという気持ち」が込められており、「痛い」には「痛いという気持ち」や「痛いからやめてという気持ち」といった内容が込められています。逆に、気持ちを込めた言葉、「痛い(痛いからやめてという気持ち)」を使った結果、相手に気持ちが通じて行動をやめてくれた、という結果が伴い、より一層「痛い」=「痛いという気持ち」という学習が深まることがあります。このように、①と②が紐づき、関わり合うことで記憶、自己概念といった心が生まれていくのです。

言語行動は行動の結果に作用する

言語行動には様々な働きがあります。言語には意味があるので当たり前ではありますが、ここで少し確認をします。「美味しい?」と聞けばここには「(美味しいかどうかの感想を教えて)」といった、相手の行動を特定の行動に導く働きが発生します。これを「マンド」と言います。他にも、「ありがとう」と言えば「どういたしまして」と返ってくることがほとんどです。このように決まった言葉で必ずある言葉が返ってきて、そういった行動を一般化するものを「イントラバーバル」と言います。

言語行動によって「ルール支配行動」が生まれる

言語行動により、話し手が聞き手を操作したり、逆のケースでは、聞き手のリアクションによって聞き手が話してを操作することがある、ということです。その中で、特定のルールを示す言語行動(タクト)に乗って行動を維持、支配すること、これを「ルール支配行動」と言います。

(例)「廊下は走ってはいけない」→「走らない」→賞賛され、次の行動も「走らない」に強化される

ちなみにこの逆が随伴性形成行動と言います。

(例)走れそうな廊下がある→走ってみた→気持ちよかった、あるいは怒られた

で次の行動が決まる。

ルール支配行動のダークサイド

言葉にはライトサイドとダークサイドがあります。ですので、このルール支配行動にもダークサイドが存在します。それは以下のようなものです。

  • 他者(ルールを提示するもの)への依存
  • 環境への敏感さの欠如
  • 同じミスを繰り返しやすくなる
  • 問題行動を強化するケースもある
ルール支配行動には、自己概念から生まれる「自己ルール支配行動」もある

過去の行動、経験から自分で自分にルールを提示し、それに基づいて行動してしまうことを「自己ルール支配行動」と言います。

  • 「A型は几帳面」と言われる→そう思い込んで行動する
  • 「B型は大雑把」と言われる→そう思い込んで片付けなんかしなくていいと感じるようになる

さらに、自己ルール支配行動には「体験の回避」という性質もあります。自分の心の中の辛い私的出来事を避けるために、それを感じないで済むような行動を選択する、ということです。

(例)友達になりたいけど話すのが不安→「自分から話をしない」という自己ルールをつくる

私たちは心の中で「話し手」でも「聞き手」でもある

私たちは言葉を使って頭の中で思考を常に巡らしています。その中で、時には私たちは「話し手」であり、時にはその言葉の「聞き手」でもあります。

私たちは最高の話し手でも、最高の聞き手でもない

私たちは頭の中で感じたこと、思いついたことについて、絶え間なく会話を行います。ですが、私たちは果たして、正確に話し、正確に聞き取ることができているのでしょうか。実はこれが難しいのです。まず、聞き手である自分は「自分が自分のことを話しているのだから、それは『すべて正しい、間違うはずがない』」という認識で聞いてしまいます。これは最高の聞き手とは言えませんね。客観的なジャッジはできないのです。これに対し、今度はその聞いた言葉に反応し、例えば話し手として自分にダメ出しをし、命令や言い訳をする、という反応をしていくことになります。客観的なジャッジに基づかない意見を話し始めるわけです。これも、最高の話し手とは言えませんね。

心の中はダークサイドに落ちやすい

言語行動にはダークサイドがあります。さらに、人間には心理的に「得と損、心理的ダメージを均等にするには得が損の2倍ないといけない」という研究結果があります。つまり、損を感じやすい心はダークサイドを伴った言語行動を心の中で行いやすく、さらに私たちは最高の話し手でも最高の聞き手でもないわけです。こういった要素から、心の中はダークサイドに落ちやすいと言えます。

ACTによってダークサイドに落ちやすい心を訓練する

ACTとは、臨床行動分析によるアプローチです。次の3つの要素から成ります。

  • 感じたことをそのままにすること
  • 感じたことに気づくこと
  • 選ぶこと
感じたことをそのままにすること

心の中がダークサイドに落ちた時、私たちはそれを取り除きたい、感じたくない、と思いますが、そのように意識している内はむしろ意識が強く成り、ダークサイドに落ちた感情はますます増大するばかりです。ACTではそれらに抵抗せず、向き合う、ということをします。感情や思考をそのままにし、その感情の居場所を作ってあげる、そういった行為を「アクセプタンス」「ウィリングネス」と言います。また、このようにして、嫌な感情に囚われず、少し距離を置いて眺めているだけの状態になる、このための練習を「脱フージョン」と言います。「フュージョン」とは、頭の中が思考や感情でいっぱいになっていて、そこに囚われていることを指します。

感じたことに気づくこと

先ほどの「アクセプタンス」や「脱フュージョン」を練習する方法の一つが「マインドフルネス」です。ここでいうマインドフルネスとは、自分自身の心の動きに気づけるよう平穏で静かな視点を持つための練習です。すべての心の動きにオープンになり、何か感情が生じたり、何かの感覚を感じたらそれに気づきます。気づいたそれに囚われず、そのままにしておき、距離を置くことを練習していくのです。

選ぶこと

ここでは「価値の明確化」をします。自分の人生にとって、大切な人や大切なことは何か、どんなふうに生きていたいのかを明確にしていくのです。そして価値を準備したら、今度は行動に移れるように計画し、勇気を持って一歩ずつ行動していきます。認知行動療法の「行動活性化」の考え方です。

ACTにおける、人の「普通の状態」とは、苦痛を抱えている状態

ACTでは人の普通について「苦悩や苦痛を抱えている状態」と捉えています。それは前述のとおり、心はダークサイドに常に落ちやすく、また、人間は学習の過程で失敗を経てきていることがほとんであると考えているからです。

ACT、マインドフルネスのエクササイズ

まず、私たちが感情をコントロールすることの難しさに触れてみましょう。

(例)テーマ「電気イス」

あなたは今イスに座っているとします。そこにはある装置がついていて、あなたの心に直結しています。あなたが不安を感じると、その装置が即座に検知し、あなたのイスに直ちに数千ボルトの電気が流れます。数千ボルトですから、かなりの程度のやけどを負うか、もしくは最悪の事態を迎える可能性もあります。そのような状況の中、あなたが生き残るために行えることは1つだけです。それは、「不安を感じないでいる」ということだけです。あなたの心の中に少しでも不安が生じると、途端に電流が流れます。あなたは何秒くらい不安を感じずに過ごせそうですか?あなたは生き残ることができそうですか?

こう考えると実感すると思いますが、感情をコントロールする、ということは実はとても難しいのです。私たちは感情や心の中にある私的出来事をコントロールすることはうまくできず、むしろ困難なことなのです。

感じたことに気づき、そのままにするエクササイズ

「空と天気のメタファー」というエクササイズがあります。

自分の視点を遠く高く、空の上まで上げていくようイメージしてください。そして、空の上から下界を見下ろします。すると、色々な天気の変化を静かに眺めることができます。雲があなたの視点の下を流れていきます。その視点の下を流れていく雲が「感情」出会ったり「思考」であったりするわけです。それは、台風の目を伴った大きな黒い積乱雲のようなものかもしれません。その瞬間地上にいれば、それに巻き込まれ、悲しみ、苦しみ、あるいは辛さに叩きのめされるような経験をするかもしれませんが、雲よりずっと高い青空のところにいれば、私たちはそれを上の方から静かに、穏やかな状態で眺めることができるでしょう。思考や感情、感覚に苛まれることなく、安心、安全な場所からそれらを観察することができるのです。

脱フュージョンをイメージするエクササイズ

「滝のメタファー」というエクササイズがあります。

私たちが思考や感情、感覚に囚われてしまっている状態は、滝の中で流れ落ちてくる水流に晒され続けているようなものです。私たちが思考に囚われているとき、私たちは次々を現れ途切れることのない言葉の流れに晒され、打たれ続けています。次々と現れる言葉は、それが大切な言葉なのかどうかを考える間もなく、まさに次々と私たちに降りかかります。私たちは、滝の流れに晒されながら、「頑張らなきゃいけない、耐えなければならない、強くならなければならない」と歯を食いしばり、この困難に溢れた状態をなんとかしようともがいています。こんな時、私たちの心には、焦りや不安、恐怖などの感情や感覚が生じてくるかもしれません。そして、私たちが感情や感覚に囚われてしまうと、途切れることもなく打ち付ける大きな滴は、私たちの心をさらに痛めつけ、より大きな感情や感覚を引き起こしてしまうでしょう。

こんな時、私たちはどのように振る舞うことができるでしょうか?ずっと言葉の滝に歯を食いしばりながら、もがき続けることしかできないのでしょうか?いいえ、私たちは、滝にさらされ続けるのではなく、滝を眺められる場所へと移動することができます。滝から少し離れて、水流が穏やかに足元を流れる場所へと移ることができるのです。そこでは、降り落ちる流れに晒されるのではなく、穏やかに流れる水流を見て、ゆっくりと思考を眺めることができます。すると次々と降り落ちてきていた思考が、同じような思考の繰り返しであり、そんなにたくさんの思考でなかったことに気づけるかもしれません。また、私たちが滝から少し離れることで、私たちの感情を高ぶらせていた大きな滴は、大気を漂う水飛沫となって、優しく私たちを取り囲み、落ち着かせてくれるかもしれません。私たちは皆、時々、思考や感情に囚われてしまうことがあります。そんな時、私たちは、ずっと滝に晒されながらもがき続けるか、滝から少し離れたところでそれを観察し、穏やかに受け入れるのかを選ぶことができます。

選ぶこと、「活力ある行動」のための条件

ACTにおける「選ぶこと」というのは、日々の行動や方向性、指針を選ぶ、つまりは人生における「価値の明確化」です。この価値を「言葉にすること」が重要になります。価値は、以下の領域に分けて考えてると良いです。

  • 人間関係
  • 仕事、教育
  • 自分の成長、健康
  • 余暇、趣味

価値には3つの定義があります。

  1. 継続できること
    • 毎日の生活の中でこのように振る舞いたい、と考えていることを言葉にして表しましょう。
  2. 基本となる心構えがあること
    • 振る舞い方の基本となる心構えを表す言葉を付け加えましょう(「集中して」など)。
  3. 自分にとって望ましいこと
    • あくまで「自分にとって」。誰か、何かのためにこうすべき、というのは価値ではないです。
価値を考える時のポイント
  • 価値は自分の望みであること
  • 価値はいつでもできること
  • 価値にはこだわらず、忘れたら思い出す
  • 価値にはいろいろあり、そして変化する
  • 価値はTPOに合わせて自由に選ぶ
価値をイメージするエクササイズ

価値をイメージする「コンパスのメタファー」のエクササイズがあります。

価値はコンパス(方位磁石)のようなものです。方位磁石の針はいつも北を指しているので、私たちはそれを見ながら、向かいたい方向を知ることができます。今、私たちは「西に向かいたい」と考えているとしましょう。私たちは方位磁石を取り出して、西の方角を確認し、西に向かって歩き続けることができます。しかし、ずっと西に向かって歩き続けるのは容易なことではなく、壁に当たったり、道が曲がっていたりして真っ直ぐ進めなくなり、道をそれてしまうこともよくあります。でも、たとえ道が逸れてしまったとしても、もう一度、方位磁石で西の方角を確認すれば、西に向かい続けることができるのです。

また、西に向かい続ける中で、あそこに行きたい、あの山に登りたい、あそこで少し休憩をしたいということも出てくるでしょう。それはそれで構いません。それらの行きたいところの一つ一つは、価値に向かう人生の一つのゴールだと考えることができるでしょう。人生の途中には、色々なゴールがあるのです。そして、一つのゴールを達成したら、もう一度方位磁石で方角を確認し、自分の価値に向かう方向、たとえば西の方角に、再び足を踏み出せば良いのです。西に向かうということは、いつでもどこでも行うことができますが、一方で西に行き着くということはありません。西という方角に終わりはなく、ずっと西に向かって進み続けることになります。価値とはそのようなものです。そこに行き着くことはできません。人生の中でこんな生き方をしよう、これを大切にしようと決めた時、それが価値であり、その方向に進み続けるということなのです。

価値に向かう行動を計画する(スモールステップで)

価値に向かう行動を計画してみましょう。スモールステップで考えることが大事です。

  1. どんな価値について計画するかを考える
    • 大切な人は誰?大切なことは何?ということを具体的に決めましょう。
  2. 自分の価値を言葉にする
    • 1で選んだ人、ことにどんなふうに接したいですか?取り組みたいですか?を考えましょう。
  3. 価値に向かう行動をスモールステップで考える。
    • ①すぐに達成できるゴール(毎日できそう、24時間以内にできそうな小さなこと)を作る。
    • ②①を1週間くらい続けたり、数日間から数週間続けたりしたらできそうなゴールを作る。
    • ③②を1〜2ヶ月続ける、もしくは数週間から数ヶ月でできそうなゴールを作る。
    • ④③が行動週間になったらチャレンジしたいことをゴールにする。

ACTマトリックスを作ってみる

この画像はACTマトリックスの例です。右側が「価値に向かう」行動で、左側が「価値から離れる」行動です。上側が「五感の体験」で、下側が「心の体験」です。

このような図を用意し、まず右下の部分から始めます。ここには「価値に向かう方向で心の中で思っていること」を書きます。

(例)価値「家族に愛情を持って接したい」に対し、心「ありがとうと言いたい」と思っていることを書く

次に左下の部分です。価値に向かう行動を踏みとどまらせている、心の中の何かについて書きます。

(例)心「めんどくさい」と思っていると書く

左上には、左下の心に伴って普段行ってしまっている、価値から離れる行動について書きます。

(例)行動「スマホでゲームをする」と書く

最後、右上に、先ほど考えた「価値に向かう行動」を書きます

これでACTマトリクスは完成です。あとはこの中からどの行動を取るか選択することです。最初から完璧にはできません。自分を客観視し、できるだけ左上の行動を減らし、右上の行動を増やせるようにしていけると良いでしょう。

まとめ

今回、認知行動療法の中でセルフケアにオススメの技法をご紹介しました。最初にもお話ししたように、保護者の方は様々な対応のために負担が大きすぎます。セルフケアは欠かせないものかと思います。今回ご紹介したものはお家で行うのにオススメのものです。ぜひ参考にしていただけたら、と思います。たくさん技法についてお話ししましたが、「10の推論の誤り」を覚えておくだけでも心の悪い思い込みに気づくことができ、ケアのきっかけになります。ぜひ覚えておいてください。もしセルフケアなんて無理、という方は、どうにか時間を使ってカウンセリング等を活用していただきたいです。

今回もお読みいただきありがとうございました。

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